再審えん罪 布川事件の無罪確定


再審無罪判決が確定
 「強盗殺人事件につき、被告人両名は無罪」
 2011年5月24日、水戸地方裁判所土浦支部の神田裁判長が静かに判決を言渡しました。布川事件で被告人とされた櫻井昌司さん、杉山卓男さんの43年余りにわたるたたかいが実った瞬間でした。やがて、正門前につめかけた多くの支援の人たちの喜びの声が法廷で言渡しを聞くわれわれにも聞こえてきました。


完全無罪の判決
 判決は、現場から全く物証が発見されなかったうえ、犯行時間に現場付近で二人を見たという目撃証言はいずれも信用できず、結局二人と犯行を結びつける客観的証拠は一切ないことを明らかにします。そのうえで自白について、自白がはなはだしく変遷し、内容も不合理である、客観的事実と一致しないといった理由をあげて、自白は信用性がないと判断しました。判決はさらに、二人が虚偽の自白をさせられた心情に理解を示す一方で、「誘導は一切していない。」という捜査官の証言は「率直さに欠けた自己防衛的なもの」で信用できないと批判し、自白の任意性にも疑いがあるとしました。
 この事件が捜査機関の作り上げたえん罪であることを宣言した、完全無罪の判決です。

 

厳しく長いたたかい
 事件発生は1967(昭和42)年8月28日。約40日後に当時20歳そこそこの二人が逮捕され、強盗殺人を自白させられます。公判で無実を訴え、最高裁までたたかったものの無期懲役刑が確定。日弁連の支援を受けて再審請求を続け、獄中で29年間を暮らし、31年かかって再審開始をかちとりました。逮捕から43年余で再審無罪、というのは戦後の最長記録です。
 この間、当事務所では、私谷萩陽一と丸山幸司弁護士、亡くなった中田直人弁護士が弁護団で活動したほか、茨城の「守る会」の事務局を担って事務所をあげて支援にとりくんできました。多くの皆さまのご支援にあらためて感謝いたします。

えん罪を生まない刑事司法へ
 布川事件は、「えん罪のデパート」とも言われるほど、日本の刑事司法の問題点があらわれています。捜査機関の見込み捜査、代用監獄の密室で長期間の身柄拘束下を利用した自白の強要、検察官に不利な証拠は開示されない、自白偏重の裁判、といった問題です。その意味で、再審無罪判決が確定したことは大きな意義があります。

取調べの全部録画、全面証拠開示、人質司法の打破など、えん罪を生まない刑事司法改革にこの再審無罪を生かしていくことが求められます。




    

えん罪・布川事件再審開始決定

特報! 最高裁で特別抗告棄却決定出る(12/15)
42年ぶりに裁判のやり直しが確定しました
 年末も押し迫った2009年12月15日、最高裁決定「特別抗告棄却」の第一報が届いた瞬間、わが事務所は喜びに沸き返りました。待ちに待った勝利決定でした。

 事件発生から42年。29年の投獄を経て、仮釈放されてから13年目。逮捕当時20才と21才の若者が既に62才、63才となって、ようやっと再審の扉をこじ開け、無実が証明されようとしているのです。
 この事件ではそもそも検察庁に特別抗告を申し立てる資格があるのか、が何よりも問題でした。30数年も隠し続けてきた「死体検案書」「毛髪鑑定書」「アリバイ証言」「現場付近目撃者証言」等々の警察・検察の手持ち証拠が第一審に提出されていれば、桜井昌司さん、杉山卓男さんのふたりが有罪になることはなかったのです。また、「自白」の強要・誘導があったことが、2005年9月に水戸地裁土浦支部の再審開始決定で明白とされ、高裁でもこうした捜査方法が断罪されたのです。自白強要や証拠隠し、証拠のねつ造まで明らかになったのですから、検察庁は過去の事実に真摯に向き合って反省し、再発防止に努めるのが当然でした。足利事件同様、警察・検察はふたりに謝罪をすべきでしょう。

 また、『やってない人間が自白するはずがない』として無期懲役刑を確定させた最高裁判所が、自らの判断の誤りを認めるのにこれだけの時間を要したことに、あらためて現在の裁判制度の問題点を指摘しなければなりません。裁判員制度が始まり、司法への国民の関心は高まっています。名張事件をはじめ、最高裁の判断を待つ他のえん罪事件でも、一日も早い公正な判断が待たれています。過去の過ちを検証することから改革の一歩が始まります。
 そして、何よりも取り調べの可視化、証拠開示など、二度とえん罪を生まない刑事司法制度の確立が必要でしょう。
 最後に、これまで様々なご支援・ご協力をいただいた皆さまのお力が、この歴史的な勝利決定をもたらしたことは間違いありません。心から御礼申し上げますと同時に、再審公判で無罪が確定する日まで、今後も見守っていただけますようお願い申し上げます。


えん罪・布川事件

えん罪・布川事件

 

 


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