東海第二原発運転差止訴訟 ~裁判報告2013.6.6~


 東海第二原発運転差止訴訟は、原告266名、原告訴訟代理人(復代理人含む)69名の陣容で始まった大型裁判です。同訴訟では、被告国に対し①設置許可無効確認、②原発使用停止を命ぜよ、との義務づけ訴訟、被告日本原電に対し、③東海第二原発を運転してはならない、との3つの請求を立てた裁判です。

 多数の原告はこれまでの2回の期日のいずれにも法廷に入りきれないほど多数出頭し、大変な熱意で取り組んでいます。

 第1回口頭弁論期日で、国は、東京・神奈川など本件原発から一定程度離れた原告について 原告適格はないとして却下を求める答弁をしました。福島第一原発事故により関東一円が大きな影響を受けた実例に照らせば、このような国の答弁は同事故の経験を全くふまえないもので、厳しい非難を免れません。原告ら代理人は、こうした国の答弁を厳しく批判しました。

 また、日本原電は、原発の判例において、絶対的安全性は求められていないなどと答弁しています。これに対しても、原告らからは、福島第1原発のような事故は社会通念上容認できると考えるのか否か、と釈明を求めています。

 大規模訴訟には常に伴う問題ですが、本件でも多数の原告が入廷できず、困っているという問題があります。裁判所は、別室でのテレビモニターでの原告の傍聴を拒否したばかりか、他の大規模訴訟でも確保されている程度の原告席を確保する努力を「防犯上の理由」から行っていません。第2回口頭弁論では、「あと9席パイプ椅子を入れて欲しい」と要請しましたが、後日、拒否すると回答をしてきました。

 そればかりか、第2回口頭弁論で、裁判所は、福島第一原発事故によって原告らが被った損害の内容についての準備書面を陳述留保にするという異常な措置をとりました。これは、民事訴訟における弁論主義にも反する対応であり、このような形で原告の権利を十分に保証しないで公正な民事裁判がおこなわれるはずがありません。水戸地方裁判所に このような不当な対応を直ちに改めるべきです。

 第3回口頭弁論期日では、福島第一原発事故で起きた悲惨な事例をふまえ、被害論について弁論する予定です。

2013.6.6(弁護士 丸山幸司)

東海第二原発運転差止訴訟


 福島第一原発事故とその後の被害の広がりを経験して、私たちは、日々の多忙や無知・無関心を理由に、目の前に存在する深刻な危険を見過ごしてきた自分を深く後悔する機会を得た。

 大地震・津波に伴う原発の危険性については、良心的な科学者が、あるいは一部の国会議員が、さらには原発訴訟に取り組む弁護士が、それぞれの場で真剣に取り上げてきたのに、日本社会はそれらを活かすことができなかった。結果として、福島県民を始めとする幾万の人々に耐えがたい苦痛を与え、現在も与え続けていることは、自らも非力な一市民であることの自覚をふまえても、痛恨の極みである。

 こうした想いを感じたのは、決して私だけではないのであろう、それゆえ多くの人々が福島第一原発事故後の脱原発運動を担っている。2012年7月31日に水戸地裁に提訴された東海第二原発運転差止訴訟は、そうした運動の1つである。

 裁判提起にあたっては、その意義についてさまざま議論がなされた。従来原発推進の政策をとってきた自民党政権が復活した今、脱原発の道筋は全く不透明なものとなってしまったが、政治が東海第二原発を止めない場合に法的に止めようという考えが提訴の基本にある。同時に、裁判は法的論戦を通じて、社会運動の理論的基礎を与えてくれたり、政治的解決の道筋を示してくれたりという役割も果たす。

 同訴訟は、原告266名、代理人71名(復代理人含む)という陣容で、驚くべき熱意をもってスタートしている。茨城県内のこれまで接点がなかったような弁護士も弁護団に加入し、毎回の弁護団会議は若手からベテランまで実に多彩な顔ぶれである。

 裁判はまだ序盤戦であるが、原告らは環境総合研究所の3次元拡散モデルによる大気汚染のシミュレーションを示し、東海第二原発で福島第一原発事故と同様の過酷事故が発生した場合、水戸市で50マイクロシーベルト、東京23区でも約4~8マイクロシーベルトにも及ぶ空間線量率になると主張している。これに対する国や原電は、「東京都や神奈川県等」「かなり遠距離の地域に居住する者」の原告適格を争い、原発には「絶対的安全性は求められていない」という相対的安全性論を主張するなどしており大変興味深いやりとりが始まっている。

 裁判での勝利のために、妥協なく闘う決意である。

2013.3.20(弁護士 丸山幸司)


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