本件は、依頼人の実父がパーキンソン病に罹患し、嚥下(えんげ)障害(飲み下すことが困難な状況)が顕著となったことから、平成15年8月に県西の総合病院の系列施設である介護施設に入所させたが、その入所の際に、それまでの家庭での嚥下状況や食事の提供がペースト食での提供であったことを詳しく報告をし、同施設に入所した後の提供食の与え方について十分注意してほしい旨を伝えた。
同施設では、入所後しばらくは上記申入れを受けてペースト食での食事の提供をしていたが、3ケ月を経過した同年10月から、依頼人家族に無断で、鮨や刺身、鰻重などをそのまま常食で食べさせるようになっていた。
その後平成16年8月ころから、実父の症状が次第に悪化して誤嚥(ごえん)の危険が高まっていたにもかかわらず、上記常食提供が変更されることなく、同年11月3日の昼食の際、実父にハマチの刺身が提供され、これを食べた実父が刺身を喉に詰まらせて窒息し心停止となり、隣地の前記病院医師が駆けつけて救急対応の措置をしたものの、その後も実父の意識は戻らず植物状態に至り、結局翌平成17年3月17日に死亡してしまった。
同事件につき、依頼を受けて上記施設に証拠保全手続を行い、施設管理記録を入手した上で、平成21年2月に水戸地裁に損害賠償請求を求めて提訴し、昨年6月16日に判決が下された。同原審判決は、上記刺身等の常食提供は、実父の既往症や健康状態からすると、安全配慮に違反したものであると認定し、施設側主張の過失相殺を否定する完全勝利判決となった。
しかし施設側が控訴し、また原審認定の中で慰謝料額の評価に一部不服があるため当方からも控訴をしたところ、平成24年12月6日、東京高裁は、施設職員等を尋問の上、双方の控訴を棄却する原審同旨の判決を下し、本件は決着した。
誤嚥症状のある高齢者が、入所施設内で、施設管理者の不十分な管理の下で誤嚥して死亡する事故が後を絶たず、同種裁判が散見されるが、施設側の安全配慮義務違反を認めて賠償を認める事案は多くはない。本件においては、施設作成の記録を証拠保全手続にて入手し、これを詳細に分析検討し、常食提供とした判断やこれを維持した施設の判断が杜撰であることや、入所者に対する管理態勢も極めて不十分であったことなどを詳細に立証できたため、過失相殺を全面排除した完全勝訴判決を勝ち取ることができた。
今後、同種事故が頻発する場合の施設に対する警鐘となることが期待できる判決を勝ち得たものと評価できる。
2013.3.20(弁護士 佐藤大志)