八ッ場ダム住民訴訟のいま


 2009年,八ッ場ダム建設中止をマニフェストに掲げた民主党が政権を取りましたが,前原元国土交通大臣は,一方で建設中止を明言しながら,他方では有識者会議を作り,ダム事業について評価基準やダムに代わる治水対策の立案手法を検討して2010年夏までに再検証すると言い出しました。
 そのために設置された有識者会議は,2010年9月に中間とりまとめを出し,それを受けて関東地方整備局(関東地整)が検証を行い,2011年9月に,八ッ場ダム建設を継続するとの結論を出しました。
 しかし,これまで強力にダム事業を推進してきた関東地整が,虚心坦懐に見直しができるのかというそもそもの疑問がありました。その上,河川改修などダム建設に代わる代替案とダム建設計画を比較する際に,最も重視されたのはどちらが安上がりになるかでしたが,八ッ場ダムでは,総事業費4600億円のうち77%が道路整備や水没地に代わる移転先の土地造成費などに使われているため,ダム建設の方が代替案よりもずっと安上がりだとされたのです。
 しかし,これでは八ッ場ダム建設が合理的なのかどうかというそもそもの疑問に科学的に答えたものになっていません。利水についても人口減少などで水余りの状況になり始めているのに,今後も水需要が増えるという従来の各都県の見解をそのまま受け入れてなされたもので,この点についても合理性は認められません。この結論を受けて民主党は2012年度予算案に反映できるよう(2011年12月末まで)に八ッ場ダム建設続行の是非を検討すると言っていますが,それまでに判断するのか先延ばしになるのか予断を許さない状況です。
 一方,この間,八ッ場ダム建設費用の支出差止めを茨城県に対して求めている住民訴訟は東京高裁において,政治の動きを見ながら審理が進み,1審判決後に明らかになった国交省が隠していた事実を基に、住民側はその不当性を主張してきました。八ッ場ダム建設が政治判断で中止されるに越したことはありませんが,仮に続行となった場合でも高裁での審理に力を尽くして,裁判で中止に追い込む決意でいます。一層のご支援をお願い致します。


八ッ場ダム住民訴訟の展開


 八ッ場ダム住民訴訟の展開2009年6月30日には、群馬県に建設が予定されている八ッ場(やんば)ダムに対する茨城県の公金支出差止めを求める住民訴訟について、住民側敗訴の判決が出ました。

 判決は国交省の主張を引き写した茨城県の主張を鵜呑みにして、水余りなのに事業の必要があるとしています。住民は東京高裁へ控訴しました。

 
-今後東京高裁でのたたかいが続けられます。ご支援をお願いいたします。-
(弁護士 五來則男)
 
 
 

特別対談(弁護士谷萩陽一vs嶋津暉之)

弁護士谷萩陽一(谷) 当事務所でも差止めの住民訴訟に取り組んできた八ッ場ダムが、前原国土交通大臣の「中止」表明により注目を集めています。この問題に長年取り組み、裁判でも意見書や証言などでご活躍されている、嶋津暉之さんにうかがいました。
八ッ場ダムは多目的ダムと言われ、治水(洪水防止)や利水(水道水等の供給)に利用するといわれています。治水効果はあるのでしょか。
 


嶋津輝之(嶋) 八ッ場ダムの治水効果は小さなもので、利根川の治水対策として意味を持ちません。最近50年間で最大の洪水である1998年9月洪水について八ッ場ダムがあった場合の治水効果を試算しますと、最大で見ても、利根川の治水基準点「八斗島」(群馬県伊勢崎市)で水位を13cm下げるだけで、そのときの最高水位は堤防の天端から4m以上も下にありましたから、八ッ場ダムがあっても利根川の治水対策として何の意味もありませんでした。利根川は大きな洪水に対応できる河川改修がほとんど終わっており、氾濫の心配はなくなっています。今必要なのは堤防の強化工事ですが、八ッ場ダムに巨額の河川予算が注ぎ込まれているために、なおざりにされています。

(谷) では,利水にとって必要なのでしょうか。特に,茨城についてはいかがですか。

(嶋) 首都圏の水道用水の需要は1990年代後半から節水型機器の普及などにより、減少傾向になり、一方で、利根川・荒川でダム建設等の水源開発が数多く行われてきたことによって各都県とも沢山の余裕水源が抱え、水余りの時代になっています。茨城県も霞ヶ浦開発事業で未使用の水源が大量にありますので、それを有効に使えば、八ッ場ダムなどの新たな水源はまったく必要ありません。 

(谷) その他,ダム建設の予定地の地盤が弱い,地すべりの危険がある,また,美しい渓谷美が失われるといった問題については,裁判でも立証してきました。日本一の建設費は,今後も膨らんでいくことは必至です。ところが,ここにきて中止反対という動きも活発です。確かに地元の人たちは国にふりまわされた被害者という面はあると思います。地元へはどのような対策が必要だと思われますか。

(嶋) 八ッ場ダムの中止に対して、ダム予定地から強い反発の声が上がっています。予定地では多くの人が代替地への移転、補償金など、ダムを前提として生活設計を立てており、ダムの中止はその生活設計を白紙に戻し、地元の人たちを苦境に追い込んでしまいますから、反発の声が出るのは当然かもしれません。八ッ場ダムの中止に当たっては生活を再建し、地域を再生させるため、最大限の取り組みがされなければなりません。それは、不要なダム計画の推進で地元を半世紀以上も苦しめてきた国と群馬県、さらに、ダム計画を後押ししてきた下流都県の責任の下に行われるべきものだと思います。

(谷) 茨城も含め敗訴判決が3つ出ていますが,高裁でのとりくみと合わせ,世論の力で建設中止に追い込みたいものです。ありがとうございました。

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